まぼろしの橋
~誰にも迷惑をかけない『妄想散歩』のすすめ⑤~
はてさて、確かに橋は架かっている。
しかし、林に入ると橋の渡り口が見つけられない。
男は狐につままれたような気持ちになりながら、林の中を徘徊した。
すると、今まで何度も通ったはずの場所に、忽然と橋があらわれたではないか。
「これは、いったいどうしたことか。」
男はいぶかしく思いながら、橋の渡り口へと近づいた。
男は何か釈然としないながらも、恐る恐る足を踏み出す。
すると、橋の先にはなにやら周りの木々に比べて、一層青白く浮かび上がる一本の木が、ひっそりと佇んでいた。
その幹の中から、何かじっと見られているような気配がし、
一瞬身がすくんだが、
同時に、何か抗いがたい誘惑にかられ、
男は、とうとう橋を渡り切ってしまった。
すると、その木は大きく口をあけたと思うや、
ものすごい力で、男を幹の中へひきづり込んだ。
林の中に男の絶叫が響いたが、
程なくして、静寂に包まれたのであった。
何ごとも、ここでは起きなかったかのように…。
完
※ひとりごと
これは、在原業平『伊勢物語』にありそうな話のイメージで読んで下さるようお願い申し上げます。(←おいッ、身の程をしれよ!)
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