《ミニチュア写真日記》鴉と黄金の錠前
遠い邦からミニチュア村にやって来た
「杣人」がいた
明け方に家を出て森を過ぎ山に分け入る
毎日柴を刈り折れた木を伐り
村まで運ぶことを生業としていた
仕事はいつも昼ごろには終わる
今日の収穫を背負いかごに詰め
縄で結わえば終わりだ
杣人「どれ昼飯にしようか」
瓢箪には来る途中で汲んだ清水が入っている
そして風呂敷の中身が今日の弁当
風呂敷から竹皮の包みを取り出す
そう凝ったものは持ってこられない
握り飯2つと沢庵3切れだけ…
それでも
今獲れた
清流に棲むイワナを焼けばご馳走だ
着火は火打石
昼飯後は熾火で煙草を一服する
これが杣人の日常だった…
ところがある日
いつもの切り株に葉っぱの皿に乗せられた
よもぎ餅が置いてあった
それも半分食べかけで1個と半…
次の日は豆大福が1個と半
誰かのいたずらだろうかと
杣人は首をかしげる
しばらく何事もなかったが
今度は団子が3個
かじられた形跡はない
次の日は干し柿が1個
干し柿は杣人の好物だった
「いったい誰が置いて行くんだろう」
「まさかどこぞの御供え物を盗ってくるような
罰当たりなことをしているのではあるまいな」
そして次の日には
大量のみかんが乗せてあった
杣人はたまらず見えぬ相手に声を放った
「お~い 誰かは知らんがいったい何のまねだ」
「いたずらではないなら話を聞こう」
しかし
それに答える声はない
ただ山間を吹き抜ける風の音だけがむなしく響く
だがそれからはいたずらは
唐突に止んだのだった
何事もない変わらぬ日常が杣人に戻って来た
しかしひと月ほど過ぎた頃だっただろうか
突風が吹き荒れた翌朝山にはいると
切り株の上には
何かを語るように
漆黒の羽が乗っていた
すると程なくして
鴉が1羽舞い降りた
驚くことに鴉が話す
どうしても頼みたいことがあるらしく
頭を下げる
鴉が言うには
「今までずっと、幾千年の時を経て
あなたのような方をお待ち申し上げていました」
「ようやく巡り会えた運に
何も聞かずにどうかお力をお貸しください」
杣人は鴉とは思えぬその口上に
「もしやそなたは遠い昔は
ひとかどの人物であったのではないか」
と問いかけたが
鴉はそれには答えず
「御不審に御思いでしょうが
獣の身を哀れに思召してお力添えを願えるなら
明日もう一度ここへお越しください
伏してお願い申し上げます」
と懇願するのであった
杣人はあまりのことの成り行きに驚愕したが
これほどの時を経て紡がれる想いとは
何事かならざらんと
腹を決めた…
翌朝山に入ると
切り株の上が何やら輝き光を放っている
何事かと近づくと小判がポツンと乗っていた
すると朝焼けの空の彼方からあの鴉が現れ
思惑ありげに誘おうとする
誘われるままに従い歩くと
壮大な門の前にたどり着いた
その門には
眩い光を放つ黄金の錠前がついていた
堅牢で簡単に外せる物ではないことは
一目でわかる
すると鴉が旋回をはじめる
下をみるとそこには黄金の鍵があった
しかも鍵は3つ…





















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