百鬼夜行の魂の笛
妄想物語(~誰にも迷惑をかけない『妄想散歩』のすすめ⑧~)
今回は『今昔物語』のような雰囲気でお願いします。
男は、訥々とその笛の曰くを語りはじめた。
男の生業は笛師であった。
さる貴人からの注文の笛が完成した。
「これは、生涯で二つとできぬ品だ…」
その出来栄えの素晴らしさに、我知らず声が出た。
天にも昇るうれしさのあまり、早速献上せねばと館を目指した。
家を出る際は、夜道を月が照らしていたが、
いつの間にか雲に隠れ、辺りは深い闇に包まれていった。
男は困ったなと思いながらも、歩きなれたいつもの道、
このまま行こうと心を決め歩を進める。
すると、どこか遠くで微かに「錫杖」の音がする。
「こんな夜だ、どこぞの修験者の方であれば、しばらくお供をお願いしよう。」と男は思った。
「錫杖」の音は徐々に近づき、どれほど大勢の者が向かってくるのかと、いぶかるほどの大音声である。
しかし、いっこうに姿が見えないまま、その音は、今や男を取り囲むように響きわたる。
男は、恐ろしさのあまりうずくまった。
すると、ピタリと音が止み、語りかけてくるではないか。
「お前には、この錫杖の音が聴こえるのだな。しからば、ついてまいれ。」
恐ろしさにおののきながらも、とうてい抗うことはかなわぬと観念し、響き渡る音のするままに従った。
男は生きた心地もせず、どの道筋をたどったかは定かではなかったが、気が付くと大河のほとりにたたずんでいた。
すると、河の中からいっせいに何かがわいてくる。
それは魑魅魍魎とはかくやと思われる、鬼や妖怪であった。
男の体は、恐怖のあまりわなないた。
その時突然、
「そなたは笛を携えておろう。奏してみよ。」と鬼が命じる。
しかし、男は手が震え、なかなか笛を吹くことができない。
「もし鬼の命令に従わねば、自分はどうなってしまうのだろうか…」
男は必死の思いで、笛を奏ではじめた。
瞳を固く閉じ、一心不乱に吹き続けると、
その音色は、大河の風に乗り、浪々と流れてゆく。
しばらくすると、何やら動く気配がする。
鬼たちは、明けゆく空に煙を散らすように消え、
「錫杖」の音は、今度はだんだん遠ざかり、とうとう聞こえなくなった。
「ああ、助かったのか…」
男は腰が抜け、その場にへたり込んでしまった。
「そうか今宵は百鬼夜行であったか。難を避けるための陰陽道も経典も知らぬが、笛の音で難を逃れたらしい。」
そして、この笛は百鬼夜行の鬼を調伏した霊験あらたかなる音色を奏でると、巷の噂になった。
しかし、その日を境に、どんな名人の手になっても、その笛からはもはや音がすることはなかった。
鬼は、男の魂のかわりに、笛の魂を持ち去ったのだろう。
お付き合いどうもありがとうございました。
前回は5/10だったので、
1か月半ぶりに妄想物語をアップしました。
写真がちぐはぐなのは、いつものお約束で…
強引に「仏教説話」風の態にしてます。
教訓は”芸は身を助く”(ココ笑うところです)
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